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第3章 出逢(70%)

病院には二週間に一度通うことになりました。血液検査も特に問題なく、僕は 少し安心しました。病院では吉草酸エストラジオール(ペラニンデポー)10 rを投与します。小さい頃から注射は苦手でしたが、通院は苦ではありません でした。どちらかと言うと、注射をしてもらう事により女の子に近づけるとい う嬉しさが勝り、待ち遠しい気持ちだったのです。 「昨日はどうだった?」 「順調だったよー」 「そっか、また、女に近づいたってことね。笑」 「うん」 「欠席のたびに代返している私のお蔭ね。感謝しなさい」 「はーい。ありがと」 「めぐは、女性ホルモンを打つと元気になるのよねー。笑」 「あたしのエネルギーだからね。ペラニンデポーは」 ホルモンを摂取している人の中には鬱病になる人達も多いと聞いていましたが 僕にそのような兆候は現れませんでした。周りの人達へカミングアウトしてい ることが僕の気持ちを和ませていたんだと思います。 「話は変わるけど」 「うん」 「今週の金曜日、バイト休まない?」 「えっ」 智美と違って僕は欠かさず出勤日にはお店に行っていたのです。因果な性格で すが、僕を目当てに来てくれるお客様がいると思うと休むことがなかなか出来 なかったのです。 「実は早慶大学の学生とコンパをするんだけど、女の子が一人足りないの」 「あたしが・・女の子として・・・だよね」 「そうに決まってるでしょ。笑」 あまり気が進みませんでした。知り合いとの単なる呑み会なら喜んで参加する のですが、コンパと言えば異性を求める呑み会との認識を持っていたからです。 「あまり気が進まないな。知らない人ばかりでしょ?」 「めぐみも、もっと男の人と付き合わないと」 「男友達だったらいるよ」 「友達じゃなくてー」 「・・・・・・・」 実際のところ今の僕は自分のことで精一杯だったのです。人を好きになるとか いう余裕はありませんでした。それも男を・・・本当の女ではない自分を好き になってくれる男性がいるのでしょうか。物珍しい生き物として観察されるの ではないかという不安がどこかにあったように思います。 「女は好きな人が出来ると綺麗になるのよ」 「ふーん、で、智美は好きな人が?」 「それ、どう言う意味!?」 「いや、綺麗になったから、彼氏でも出来たかな?って・・笑」 「逆の意味で言ったような気がしたけど?」 「そんなことないって・・・笑」 「ほら、笑ってる」 「あはは」 「とにかく、私からお店には休む連絡をしとくから・・・いいわね」 「まだ、行くって言ってないよ」 結局、僕は智美から強引に参加を強制されることになってしまったのです。 そしてその日はすぐに来ました。 お店は南池袋にある翆々(スイスイ)という呑み屋さんでした。「癒しとシゲ キが同居する」鮮烈な隠れ家レストランで個室感覚に仕切られた空間がとても 落ち着く雰囲気のところでした。 「で、めぐみさんは・・・」 「DoAsInfinityの伴都美子に似てない?」 「うん、どことなく似てるかも」 「えっ?」 「おいおい、聞いてくれてなかったのぉ?笑」 僕は久しぶりに呑んだお酒に酔っていました。女性ホルモンの影響なのかアル コールには弱くなっていたのです。お店でもウーロン茶で通しているくらいな のです。 「実はラブラブの彼氏が居たりして?」 「この子は彼氏、居ないわよ。親友の私が保証してあげる」 「うっそー。こんなに可愛いのに?」 「短期大学だから殆どが女の子で男性と知り合う機会がないの」 「じゃ、俺たちはラッキーだったな」 「めぐみはキッスの経験もないんだから、悪いことしちゃ駄目ですよ」 智美が僕に代わって応対していました。僕は砂田さんにされたキッスを思い出 したのです。 「えっ、あるよ・・・キッス」 一斉にみんなが僕を注目しました。 「嘘!いつのまに?」 真っ先に反応したのは智美でした。 「オイオイ、二人の関係はどうなってるんだ?」 どことなくSMAPの木村拓哉に似た少し長髪の人がチャチャを入れました。 「そうそう、まるで智美ちゃんはめぐちゃんの母親みたいだよ。笑」 少し、EXILEのATSUSHIに似た怖い顔のお兄ちゃんが続けたのです。 「この年まで20年近くもキスの経験がない方がおかしくない?」 こっちの人はSHUNに似てるかなぁ? 「だって、この娘は2年前まで男だったのよ」 「え!?」 「あうんぁ?」 「へっ?」 智美の一言に拓哉とATSUSHIとSHUNが一斉に自分の耳を疑ったよう でした。一緒に来ていた里美と久美子は智美を嗜める顔をしていましたが、当 の智美は知らん顔で続けるのです。 「あれ?言ってなかったかしら?めぐみは生まれてきた時は男の子だったのよ」 「ニューハーフってこと?」 ATSUSHIが僕に質問を投げかけて来ました。 「そうなのかなぁー」 ニューハーフと言う言葉が適切かどうか判断に困りましたが僕は生返事をした のです。 「まぁ、女70%ってところかなー」 智美が僕に代わって答えました。 「70%?」 「まだ、股間に男があるし、恋もしてないから・・・」 「智美、そんなことを言ったら、めぐみが可愛そうよ」 「なんで?」 里美は僕をかばってくれたのですが、実際のところは智美に少し感謝していま した。相手に自分のことを言わなければ騙しているようで、後ろめたかったの です。会話にもなかなか入れませんでした。 「デリカシーが無いんだから・・・智美は」 「そうかなー」 「いいよ。本当のことなんだから、あたしはぜんぜん・・・」 「そうそう、めぐちゃんも黙っていると自分が嘘を付いているようで、気分よ  くないっしょ?智美ちゃんは代わりに言ってくれたんだよ」 今まで黙っていた古河祐樹が突然、僕と智美の気持ちを代弁してくれたのでし た。 「うん」 僕も祐樹さんの意見に賛同しました、このままでは智美が悪者になってしまい そうだったのです。 「オイオイ、急に会話に加わったと思ったらいいとこ持っていくのかぁ?笑」 拓哉が言いました。 「で、その胸は本物?」 しばらくは僕の話題が中心となってしまいました。 二次会はみんなでカラオケに行って深夜まで、呑んで歌ってストレスを発散し たのです。 「おい、起きろよ」 「う〜ん」 僕は疲れてカラオケルームで寝てしまったようです。 「あれ?みんなは?」 「帰ったよ」 「うぐぅ〜」 胃の中のものが逆流を始めたのです。この吐き気は、ホルモンによるものでは ありませんでした。 「オイオイ、我慢しろ!こっちに」 「うぅっ」 僕は祐樹さんに肩を抱かれ、トイレまで連れて行かれました。 「うげっー。ごぼっ、ゲー」 「・・・大丈夫かぁ?」 「うっゲー」 「・・・・・・・・・」 祐樹さんの話では僕が寝てしまった後、親友を置き去りにして智美達はそれぞ れどこかに消えて行ってしまったのだそうです。女の友情?なんてそんなもの だと思い知らされたのでした。 「普通、女の子が吐くまで呑むかぁ?」 「ごめん・・・」 「まぁ、酔って暴れるよりはマシだけどな(笑)」 「してないですよね・・・あたし」 「うん?うん」 「えっ、暴れたんですか?覚えてないんです」 「・・・・・・」 「あはは、してないよ。大イビキで寝てただけだよ」 「うっ、イビキ・・・」 会計を済ませると、祐樹さんと僕はカラオケボックスを後にしました。土曜日 の朝6時前ということもあって、いつもなら人の波でいっぱいの歩道には誰一 人いませんでした。まるで第三次世界大戦で人類が滅亡し、この世には二人し か居ないような光景でした。 「行こうか!」 祐樹さんがあまりに自然と手を差し伸べたので、僕は思わずその手を掴んでし まいました。僕は掴んだ手は外すことも出来ずに祐樹さんの手を握ったまま誰 も居ない歩道をまるで恋人のように歩きました。 「この先の駐車場に車を止めてあるんだ」 「うん」 「家まで送って行くから」 「えっ?いいですよ。電車で帰ります」 「朝帰りのふしだらな女に思われるぞ」 「そんなー。・・・でも事実かぁ」 「それに、周りの人に迷惑だよ。めぐ、ゲロの匂いがプンプンするし」 「うそぉー」 「あはは」 結局、僕は言われるままに姉と住むマンションまで送ってもらったのでした。 「ただいまー」 「オイオイ、朝帰り?」 「ヘイ」 「男に送ってもらうなんて・・・」 「えっ?見てたの?」 「なわけないしょ。めぐはすぐに引っかかるんだから、嘘付けないわね。笑」 「うー」 「でも、めぐも・・・女になったてことかー。」 「違うって!」 「はいはい」 姉は僕の弁解は無視して自分の部屋へと消えてしまったのです。


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